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そもそもユダヤ教徒もキリスト教徒も預言者のことを知っていた。しかし悪意と嫉妬が、信仰の妨げとなった。知っていたという面においては、彼らは実にはっきりと、絶対的な形で知っていた。信仰するようになる為には、預言者を一度でも見ればそれで十分という状態だった。聖クルアーンでは、このことは次のように述べられている。
「われが経典を授けた者たちは、自分の子を認めるようにそれを認める。だが彼らの一部の者は、承知の上で真理を隠す」(雌牛章2/146)
この章で、預言者の名が明記されず、彼、となっているが、それは、経典の民全てが、最後の預言者として、彼、と言われた時点で、それぞれの聖書で名前が出てくるその人を理解する、という印である。彼というのは、もちろん何の疑いもなく、預言者ムハンマドのことである。そして彼らは、彼を、自分の子供以上によく知っていた。ウマルはアブドゥラー・ビン・サラームにたずねる。
「預言者を、自分の子供のように知っていましたか」返事はこうだった。
「自分の子よりもよく知っていました」ウマルが、「どういうことですか」と聞くと、
「自分の子については疑いを持つこともありえます。もしかしたら妻が嘘を言っているのかもしれないから。でも、彼が最後の預言者であるということについては、全く疑いを持ちません」と答えたという。
嫉妬と悪意
そう、彼らは預言者のことをよく知っていた。しかし、信じることと知っていることは別であった。知っているが、信じてはいなかった。嫉妬と悪意が信仰への妨げになっていた。
「(今)アッラーの御許から経典(クルアーン)が下されて、かれらが所持していたものを更に確認できるようになったが、―以前から不信心の者に対し勝利をお授けくださいと願っていたにもかかわらずー心に思っていたものが実際に下ると、かれらはその信仰を拒否する」(雌牛章2/89)
この章で、アッラーは、彼らが預言者を認めなかった本当の理由について述べておられる。全ての問題は、最後の預言者がユダヤ人ではなかったというところにある。もし預言者がユダヤの血筋からなるものであれば、彼らの行いは全く異なっていただろうというのは、全く疑いのないことである。アブドゥラー・ビン・サラームは、預言者のもとにきて、言った。
「預言者よ。一時的に私を隠してください。それから、マディーナのユダヤ学者を全て呼び集めてください。その席で、私や、私の父についてどのように知っているか、聞いてみてください。皆、好意的なことを答えるはずです。その後で、私は現れて、ムスリムになったことを公表しましょう」
預言者もこれを認められた。アブドゥラー・ビン・サラームは家の中で身を隠し、ユダヤ学者たちが呼ばれた。預言者が彼や彼の父についてどう思うかと尋ねると、
「彼と、その父は最も名誉ある学者たちだ」と答えた。再び預言者が尋ねられた。
「彼がもし私を認めたら、それに対して何と言われますか」彼らは
「あり得ない。決してそんなことはあり得ない」と答えた。その時アブドゥラー・ビン・サラームが姿を現し、ムスリムであることを宣言した。皆驚き、そのうち、「彼らは最悪の学者たちだ」と、前の言葉を覆した。
競争心
ムギーレ・ビン・シューベは語っている。
「私は、アブー・ジャハルとともに座っていた。そこに預言者が来られた。いくつかのことについて説明をし教えを説き始められた。アブー・ジャハルは、馬鹿にした調子で、
『ムハンマドよ。もし、この説明とやらを、あの世に行ったときのために、教えを説いたということの証人を求めてやっているのなら、ほどほどにしてくれ。私が証人になってやるから、これ以上私のじゃまをしないでくれ』と言った。預言者はその場を立ち去られた。私はアブー・ジャハルに尋ねた。
『本当に、彼を信じないのですか。』
彼は答えた。『本当は、彼が預言者だということは知っています。ただ、ハーシムの一族とは、昔から競い合いがあるのです。彼らは、我々のほうが優れていると言ってはばからない。その上、預言者も我々の中からだ、というのならば我慢できません。』」
クライシュ族の者たちが集まって相談し、ウズベ・ビン・レビを預言者の元に派遣することにした。ウズベは行って、説得し、預言者の布教活動を辞めさせることになっていた。この人物は、アラビア文学をよく知り、裕福であった。預言者の元に行き、彼なりに論理的な攻めをすべく、質問をはじめた。
「ムハンマドよ。あなたと、あなたのお父さんとでは、どちらがより価値がありますか」預言者はこの問いに答えなかった。というより、このような問いには最もふさわしい、沈黙という形で返事を返したといえよう。ウズベは続けた。
「もし、あなたよりお父さんの方が優れているというのなら、あなたのお父さんは、あなたが今価値を認めていない神たちを崇拝していたのですよ。もし、あなたの方が優れているというのなら、ぜひお話しなさい。私もうかがいましょう」預言者は「言いたいことは全部すみましたか」と言われた。ウズベは、はい、と言い、黙ってしまった。預言者は、フッスィラ章を唱え始められた。
「それでもかれらが、背き去るならばいってやるがいい。『あなたがたに、アードとサムードの(被った)落雷のような災害を警告する』」(フッスィラ章41/13)
に及んで、ウズベは耐えられなくなって、マラリア患者のように震え始めた。その手を預言者の口元に伸ばし、
「黙ってくれ、ムハンマドあなたが信じている神への愛にかけて、黙ってくれ」
と言った。そして去っていった。マッカの者たちは、結果を待ちわびていた。アブー・ジャハルは、ウズベの帰り方が気に入らなかった。「行ったときと様子が違う」と周りの者と言いあっていた。ウズベはまっすぐに家に戻った。彼が聞いた章は、彼に隕石が衝突したかのような衝撃を与えていた。そのうち、アブー・ジャハルがやって来た。ウズベが信仰を選ぶことを恐れたのだった。彼はウズベの弱点を知っていた。自尊心を傷つけられることであった。アブー・ジャハルは行動に移った。
「ウズベよ。聞くところによるとムハンマドはあなたを褒め称え、食事を出し、もてなしたそうではないか。それであなたもいい気になって彼を信じるようになったんだと皆言っている」ウズベは腹を立てて言った。
「私が、彼に食べ物を恵んでもらわなければならないような人間ではないことは皆知っているはずだ。このあたりで一番裕福なのは私だ。ただ、ムハンマドの言ったことは私を驚かせた。詩でもないし、予言をする者の言葉のようでもない。何と言ったらいいのかわからないが、彼は正しいことを言う人だ。彼の言葉を聞いて、我々にも災害が起こるのではと怖くなったのだ」
 
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